偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
私はもう本当のことを答えるしかなかった。

「……彼と、お付き合いしてるんです」

店のBGMにかき消されそうなほどの小さな声だったけど、父の表情が瞬時に硬く強張った。

「……そうか」

雷が落ちんばかりに激高するかと思いきや、父は静かにひとこと言った。けれど、唇は細かくわなないていて、こみ上げる怒りをなんとか理性で押さえつけているようだった。

「やはりお前は、順子と同類だな」

「……お母さんと?」

突然、母の名前が出てきて私は目を瞬かせた。

「人の物を平気で横取りする、男たらしのあばずれだ。お前は知らないだろが、順子に惑わされて崩壊した家庭から責任を問われ、私はその尻ぬぐいを何度もしてきたんだ。まさか、お前まで、あの女のようになっていたとは……どうせ、優香から水城君を奪ったんだろう?」

「ち、違う! 優香には――」

勢いに任せて川野さんを巻き添えにしてはだめだ。

私は出かかった「優香には川野さんがいる」という言葉を慌てて飲み込んだ。

――人の物を平気で横取りする、男たらしのあばずれだ。

父の口から発せられた言葉は私の胸を深々と抉り、涙も出ないほど心が傷ついた。
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