偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
ごくりと唾を呑み込んで、私は先ほど先輩たちが話していた事を、言葉を噛みながらなんとか伝えた。

『なんだって? ハァ、まったく……。そうか、困ったな』

電話の向こうで水城さんが大きくため息づいて困っている。すでに会食の準備は進み、参加企業の人たちもピアノの演奏を聴きながらのディナーを楽しみにしているかもしれない。

『わかった。とにかく教えてくれて助かった、ピアノの演奏は無しでも――』

「あの! 私でよければ梨花さんの代行できませんか?」

『え?』

水城さんはきっと、この日を完璧に終わらせたかったはずだ。梨花さんのせいで台無しになるなんて……。そう思うと私は居ても立っても居られず、そう口走っていた。

「今、仕事が終わって帰ろうとしてたところなんです。今から急いで恵比寿に向かえば、会食の時間までには間に合います」

『プレゼンに有坂社長も来ている。あまり顔を合わせたくないだろう?』

お父さんが来てる……?

なんてタイミングが悪い。できれば会いたくなかった。けれど、今はそんなこと言っていられない。
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