偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
ピアノを弾きながら水城さんをふと見る。今まで演奏していた曲調と打って変わってその軽快なテンポにきょとんとしていたけれど、すぐにふっと笑顔になった。私もそれに微笑み返す。

言葉がなくとも私と水城さんは繋がっている。そう思えるだけで幸せだった。だから、なんとか父に私と水城さんのことを認めてもらいたい……。

昔のことを思い出して、演奏中に少し涙目になってしまいそうになったけれど、ぐっと堪えて指の動きを終息させる。

すると、店内にいた人たち全員から割れんばかりの拍手喝采に包まれた。

このなんとも言えない爽快感と達成感は、ピアノを弾き終わったこの瞬間にだけ味わうことができる。

ああ、本当に今までピアノをやってきてよかった……。

気分が高揚し、本腰を入れてピアニスト道へ進もうかとさえ思ってしまう。

「演奏、素晴らしくよかった。ありがとう、これで無事にプレゼンを終えることができそうだ」

すぐに水城さんが歩み寄ってきて、晴れ晴れとした気分の私にそう言ってくれた。

「よかったです。こんなに緊張したのは久しぶりです」

ホッとして全身から力が抜ける。辺りを見回すと会食は滞りなく終わりを迎えようとしていた。
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