偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
もっとほかに言わなきゃならないことがあるのに、締め付けられるような喉から出てきたのはそんな言葉だった。

「どう、とは?」

「そ、その……」

子犬のワルツは、まったく父の胸に響かなかったのだろうか。それとも、家族の楽しかった思い出なんて、もうとうに忘れてしまったのか。父の無機質な声音に思わず怯む。

「今日の目的はプレゼンだ。お前のピアノを聴きに来たわけじゃない」

「そうだけど……」

足がまるで棒みたいに固くなって動かない。そんな言い方しなくても……と、心に黒いシミがじわりと広がり始めたそのときだった。

「有坂社長、いつまでそんな意地を張ってるおつもりですか?」

その声にハッとなって顔をあげると、いつの間にか水城さんが私の横に並んでいた。

「水城君……」

父の表情が気まずそうに歪み、顔を背けた。

「今回のプレゼンは、参加企業の発表だけがすべてじゃありません。会食の演奏なしでは完璧に成しえなかった。こちらの事情で本来の演奏者に穴をあけられてしまって……それを彼女が助けてくれたんです」

水城さんの温かな手が私の肩に載せられて軽く引き寄せる。“大丈夫だ、俺がいる”というように。
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