偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「いいえ! すごく美味しかったです。こんなお料理、普段食べないので……あっ」

そう声をかけられて、つい俯き加減になってしまっていた顔をあげる。そしてワイングラスに手を伸ばしたとき……やってしまった。

「すみませんっ!」

手が滑って赤ワインの入ったグラスが傾き咄嗟に押さえたものの、私の白いカーディガンにワインが派手にこぼれてしまった。

「大丈夫か? 慌てなくていい、こういう時のためにここの店、近隣に提携してるクリーニング店があるんだ。ちょっと待ってて」

水城さんはそう言って、近くのスタッフを呼んだ。

「彼女のカーディガン、今すぐクリーニング出せますか? 少し急ぎなんだけど」

「はい。かしこまりました。それではお客様、お召し物をお預かりします」

そんな、クリーニングだなんて……ちょっと拭けば大丈夫なのに。あぁ、私の馬鹿!

デートなのにこんな失態恥ずかしすぎる。

「時間はたっぷりあるし、デザートを食べ終わった頃には間に合うはずだ。汚れた服で一日過ごすのは嫌だろう?」

確かにシミになっても困るし、白地だから赤ワインは目立つ。

水城さんに促され、カーディガンを脱いでスタッフの手が汚れないようにシミの部分を内側にして渡す。

「すみません……」

穴があったら入りたい! 落ち着きのない女だって呆れられちゃったかも……。

半袖のワンピースだから急にカーディガンを脱いで腕回りが心もとない。
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