偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「あの、何から何までありがとうございました。すごく美味しかったです」

何度もお礼を言うと、水城さんは優しく私に微笑んでくれた。

「満足してくれたみたいでよかったよ、さて……これからどうするかな」

時刻は十六時。

レストランには途中ハプニングもあり三時間近くいた。

初めは何度も途中で引き返したくなるくらい緊張しっぱなしだったけれど、店を出るときには“時間が経つのは早い、もっと話していたい”なんて思ってしまった。彼と一緒にいるとなんとなく心地いい。私の緊張をほぐそうと気を遣って色々面白い話をしてくれたし、ワインをこぼしたときも嫌な顔ひとつせず優しかった。

一方的にイルブールに来る常連さんとして前から知ってるとはいえ、こんな形でデートするなんて不思議よね……。

「あのさ、これから映画を観に行かないか? 君、ホラーが好きって言ってただろ?」

「え?」

ぼーっとレストランでのことを思い返していると、突然話しかけられてドキッとする。

そうだ、優香は大のホラー好きなんだった。そんな話をしていたなんて……まさか、これからそのホラーを観に行くなんて言うんじゃないよね?

「今、大ヒット上映中の“漆黒の海の死体”だっけ? あれを観に行きたいって言ってたよな?」

水城さんは私の心中もお構いなしにキラキラの笑顔を私に向けてくる。

はっ!? 漆黒の海の死体っていったら、めちゃくちゃ怖いって噂の……?

漆黒の海の死体、は今話題のホラー映画でよくCMにも流れている。その度にチャンネルを変えたくなるほどだ。

いや! 絶対行かない! 行きたくない!

「今度会ったときに観に行くって約束してたし……行くか」

水城さんはそういうと、目が点になっている私ににこりと笑って手を取った。

はーっ!? や、約束? そんな約束してたなんて聞いてない!

いきなり手を繋がれている困惑と、急遽私の苦手なホラー映画を観に行く流れになってしまい、どうしていいかわからなくなってしまう。けれど、約束までしたのにそれを断る口実も見つからない。前回会ったときにで約束しておいてここで変に拒否するわけにも……。
< 35 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop