偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「あはは……楽しみですね、映画」

抑揚のない口調で苦笑いを浮かべる私の顔は、すごくブサイクに違いない。

もうこうなったらなるようになれだ!

「じゃあ、そうと決まれば行こうか」

私の心の叫びは届くことなく、水城さんはぎゅっと私の手を握り直す。そんな彼の笑顔はやっぱり素敵だった――。


映画館はレストランから少し離れた場所にあった。

「ここの映画館、よくひとりでレイトショーに来るんだ。音響に定評のあるところで臨場感がたっぷり味わえるよ」

「へ、へぇ……」

臨場感たっぷり!? どうしよう! 怖さマシマシってことだよね?

タイミングよく上映時間前だったようで部屋の清掃作業も済み、中に入ることができる状態だった。その入り口は、まるで地獄への門のように見えた。

適当に空いている席を見つけて座る。水城さんから飲み物は?と尋ねられたものの「大丈夫です」と首を振った。きっと飲み物すら喉に通らないくらい上映中は余裕がないかもしれない。

水城さんが私の横に座り肩が触れ合うと、彼からふわりと清潔感漂う爽やかな香りがした。そして薄地の袖から互いの体温を交換し合っているみたいでドキドキする。

映画なんて何年ぶりだろう。最後に映画館で映画を観たのは元彼とだった。
『ほかに好きな人ができた』と言ってあっさり振られてしまったけれど、私は全然悲しくなかった。好きだったけれど、自分がつまらない女だったから振られたのだ……と逆に彼に対して罪悪感を覚えた。

水城さんは私といて楽しいって思ってくれてるのかな?

そんなことを考えていると、いつの間にか映画が始まった。

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