偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
上映時間は二時間半。

映画館から出てきた頃にはすっかり日も暮れていた。

き、きぼぢわるい……。

顔面蒼白でよろめきながらなんとか手すりにつかまる。

漆黒の海の死体は、実際スプラッター系のホラーでランチをしたばかりの胃を容赦なく刺激した。

「大丈夫か? 顔色が優れないな、具合でも悪い? とにかくどこかに座ろう、立っているのも辛そうだ」

「はい……」

はぁぁ、情けない! たかが映画観ただけでフラフラしちゃうなんて。

水城さんに身体を支えられ、私は近くのベンチに座った。たぶん、あのまま歩き続けていたら、今頃どうなっていたかなんて想像もしたくない。

「正直に答えて欲しいんだけど……ひょっとして君、ホラー映画苦手なのか?」

「えっ!?」

水城さんに顔を覗き込まれ、私は虚をつかれたように目を丸くする。

もしかして優香じゃないってバレた!?

「えっと、実は……ですね、その――」

なんとか言い訳を考えなければと思って無意味な言葉を並べていると、水城さんがニッと笑った。

「なんだ、やっぱり苦手だったんだな。どうりで様子が変だと思った、無理させてすまない」

水城さんの大きな手が私の頭にそっと載せられる。まるで慰められる子どもみたいだ。

「俺は素の君の姿がみたい、だからなにも着飾る必要なんてないんだ」

「水城さん……」

視線が合って見つめ合うだけで胸がきゅっと締めつけられる。

なにこれ、どうしよう……すごい胸がドキドキして、苦しい。

水城さんの瞳はなんの淀みもなく綺麗に澄んでいて、そこに映っていたのは水城さんの偽りの恋人である私の姿だった――。
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