偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
そして週明けの月曜日。

水城さんとのデートの終わりは最悪だった。

映画を観終えて、気分が悪くなってしまった私に『無理させられないから』と言って、その場でタクシーを呼んで自宅まで送ってくれた。初めはあんなに嫌々だったのに、おかしなことに別れ際には名残惜しい気持ちでいっぱいだった。それなのに、水城さんに余計な気を遣わせてしまい、ろくにお礼を言えないまま別れた。

週が明けても自己嫌悪を引きずって、私は自分の犯した大失態に今にも押しつぶされそうになっていた。

水城さん、今頃仕事かな? 休みの日って土日なのかな? 社長だから関係ないとか? だとしたら週末はデートのために時間を割いてくれたの?

ポンポンと水城さんについての疑問詞が浮かぶ。こんな気持ち初めてだった。

今度会ったらデートのこと謝って、お礼言わなきゃ……ってまた今度があるかどうか……。

私って、人のことをこんなに気にするタイプだったっけ?

ハァ……。

心の中で重たいため息をつく。

私はいつものように仕事を終え、今夜もピアノ演奏のためにイルブールに来ていた。ピアノを弾いている最中、チラッとテラス席の方を気にして見たけれど……“水城さん”は来ていないみたいだった。

まさか、水城さんがイルブールのあの常連客だったなんて……しかも実際すごくいい人だったし。

自分でもよくわからない状況のまま、優香に根掘り葉掘り聞かれても困る。と思っていたけれど、優香が帰宅したのは昨日の夜遅くだった。今朝もすれ違いでまだデートのことは話せていない。

「愛美ちゃん、お疲れ。今夜は叔父さん特製のシーフードパスタだぞ、ほら、食ってけ」

「ふふ、ありがとう。いただきます」

叔父の料理は美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。そろそろ本気でダイエットしないと危険だ。

スツールに腰掛け、スマホを手に取ると着信の後にメールが入っているのに気づく。
水城さんからだ! あぁ、演奏中だったから電話に出られなかったんだ……話ししたかったな。

そして受信BOXを見てみる。

【体調のほうはどうだ? 週末は楽しかった。ありがとう。また会いたい】

また会いたい……また会いたいって!?

思わずスツールから立ち上がりそうになり、眼鏡越しにそのメッセージを食い入るように見つめる。

お、落ち着いて、とにかく後で返信しなきゃ……。

「愛美ちゃん? どうしたの? ニヤニヤしちゃって、なんかいいことでもあった?」

「え? べ、別に」

叔父に怪訝な顔をされても今はどうでもいい。だって、水城さんが“また会いたい”って思ってくれた。ニヤニヤしちゃうに決まってるでしょ。

急に恥ずかしくなって俯きながら、何度も水城さんからのメールを読み返す。

「ふ~ん、男だな?」

「へっ!?」

顔をあげると、叔父が親指と人差し指で顎を挟みながら意味深にニッと笑った。
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