偽恋人からはじまる本気恋愛！～甘美な罠に溺れて～
「お、男だなんて、そんな違うって！」

「俺の観察眼を見くびるなよ？　男に想いを寄せてぽーっとなってるときの女の顔はよく知ってるんだ」

「なんでそんなこと……」

叔父は「さぁな」と言って、もう一度ニヤッとすると仕事に戻って行った。茶化されるのは嫌だったけれど、なぜだか今ならそれもこそばゆく感じてしまうから不思議だ。ふと、カウンター横の鏡の柱に映っている自分の顔を見てみる。

デートのときとは違い、髪もひとつにまとめて眼鏡をかけ、化粧もほとんどしていない地味な顔面偏差値低めの顔に、現実を突きつけられているようでげんなりする。外見だけは装えても、中身だけは簡単には変えられないのだ。

やっぱり私は優香にはなれないよね……中身は全然違うもの。

もう何度目かになる重いため息をつきながら再びテラス席に視線をやるけれど、そこには水城さんではなく別の男性が座っていた。

今夜は来ないのかな？

まだ一週間は始まったばかりだ。もしかしたら水曜に会えるかもしれないし、金曜かもしれない。

万が一、イルブールで水城さんに会ったとしても、今の私は優香の姿じゃない。声をかけられることもないはずだ。もちろん私からも声をかけることもできない。
そう思うと切なさがこみあげてくる。

今度はいつ会えるのかな？　また、電話かかってこないかな……。

ハァ、と再びため息をついてジントニックに口をつけるとバッグの中から着信が聞こえた。また優香からかと思ったけれど、電話の相手は……。

「もしもし？」

『こんばんは、もう仕事は終わったか？』

「水城さん!?」

すごい。水城さんのことを考えていたら、本当に電話が来ちゃった！

こんな偶然、予想もしていなかっただけに焦る。
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