偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
時刻は二十一時。

地元の方は都心と違い、住宅地へ入ると人気も少なくなる。

私は幸いにもポーチの中に優香が使っている化粧品を携帯していて、駅の化粧室で優香メイクをし、髪の毛も下ろして整えた。さすがにコンタクトは持ち合わせていなかったけれど、“ドライアイで今日は眼鏡なんです”という言い訳もバッチリ考えてある。

私の住んでいるアパートは家賃こそ安いけれど、駅から少し離れた場所にあるのがひとつ不便なところだ。電車の中で優香からメールが入っていて、今夜は急遽飲み会になったらしい。

早く水城さんのこと優香に話したいのに、タイミング悪いんだから。

そんなことを思いながら人通りの少ない路地に入ったところで、私はふと背後に気配を感じた。

その気配は、直感的になんとなくいい気がしなかった。浮かれた気持ちにピリッと緊張が走る。

誰かにつけられてる? 水城さん、じゃないよね?

歩く足を止めると足音が消える。そして再び歩きだすとまた足音がしだす。気づかれないような距離を保ちながら私の歩くスピードに合わせている。こんな怪しい歩き方、水城さんならしない。

気のせい? ううん、気のせいなんかじゃ……。

コンビニでもあればそこに入って様子を窺うこともできたけれど、この辺は閑散としていて何もない。すると、こんなときに限って週末に観た映画でヒロインがストーカーの男に追いかけられているシーンがフラッシュバックした。

――待て、待て! お前を、殺して俺のものにしてやる!
――いや、来ないで! 誰か! 助けて!

っ!? こ、怖い!

ゾワッと背筋に悪寒が走る。

私は素早く横道に反れ、別の道を辿って人通りのある駅の方へ逆戻りしようとした。けれど、急に目の前に大きな影が立ちはだかって行く手を阻まれた。

え……?
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