偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
――美人ピアニストお忍び深夜デート! お相手は大手企業のイケメン社長か

一番上に出てきた見出しに目を見開いて顔が凍りつく。私はそのページをクリックすることができないまま、すぐにネット画面を閉じた。

やっぱり、その相手って……水城さんのこと、だよね?

本人に確認しないで勝手に決め付けるのはよくないと、そうわかっていても頭の中で切り替えができない。ぐるぐるとネットの見出し文句が回っている。

ああ、最悪……私、きっと水城さんに遊ばれていたんだ。

優しくほほ笑みかけて、私のことを本気だって言ったのも全部嘘だったの?

こんなゴシップに振り回されてはいけない。今は仕事に集中しようと私は再びキーボードに指を滑らせた――。


「どうした? 今夜はやけに元気ないじゃないか」

いつものようにイルブールでの演奏を終え、カウンターでため息をついていると叔父が私の様子を怪訝に思ったのか、心配そうに声をかけてきた。

「ううん。なんでもない」

「なんでもないって顔じゃないけどな、長い間、愛美ちゃんのこと見てきてるんだ、わかるさ」

叔父の優しい笑みに思わず心のモヤモヤを吐き出してしまおうかと思ったけれど……こんな個人的なこと言えない。

「ほんとになんでもないって、大丈夫」

無理に作り笑いで誤魔化すと、叔父は「そうか」と言って気遣うようにそれ以上、なにも尋ねることはなかった。

演奏中も集中できなくてちょっと間違えちゃったし、こんなことじゃだめだよね……。
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