偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「私があなたの演奏を聴きたかったのは本当。でも、樹に『イルブールに優秀なピアニストがいる』『いつ聴いても心が洗われる音色だ』って言われて気になってね。だって、“好きな人”が私以外のピアノを褒めるなんて、ちょっと悔しいじゃない? 彼、時々ここへ来てあなたの演奏を聴いてるみたいだけど」
樹……って、下の名前で呼び合う仲なんだ。
今、自分がいったいどんな顔をしているかわからないけれど、きっと固く強張って“ショックだ”と表情に出ているに違いない。
「樹が人のことを褒めるなんて滅多にないの、でもあなたの演奏を聴いて少し安心した」
「安心……?」
「樹は優秀だって褒めるけど、私から見たら身構えるほどのことじゃないってわかったから」
“私の足元にも及ばないお粗末なピアノだった”そう言われたようでガツンと頭を殴られたみたいになる。
「樹にはずっと私のことだけを見ていて欲しいの。言っている意味、わかる?」
梨花さんに顔を覗き込まれる。まるでその目は“だから邪魔しないでね”とけん制しているようだった。
「私、水城さんがここへ来ているなんて知りませんでしたし、話したこともないんです。昨日、パリメラに行ったのも、たまたまで……」
心にもないことを言って、その場を誤魔化そうとする私は最低だ。けれど、私は波風を立てなくなくて水城さんがここへ来ているのは知らないと嘘をついた。
「そう。それならいいんだけど……あ、もう行かなきゃ。お寛ぎのところごめんね、じゃあまた」
一瞬、胡乱な目をして、忙しなく腕時計をチラッと見ると、梨花さんは何も飲まずに言いたいことだけ言ってその場を後にした。
いったい、なんなの……?
これ以上ここにいたら、訳が分からず泣いてしまいそうだった。叔父に余計な心配をかけたくないし、落ち着きを取り戻すまでしばらく休んでから家に帰ることにした――。
樹……って、下の名前で呼び合う仲なんだ。
今、自分がいったいどんな顔をしているかわからないけれど、きっと固く強張って“ショックだ”と表情に出ているに違いない。
「樹が人のことを褒めるなんて滅多にないの、でもあなたの演奏を聴いて少し安心した」
「安心……?」
「樹は優秀だって褒めるけど、私から見たら身構えるほどのことじゃないってわかったから」
“私の足元にも及ばないお粗末なピアノだった”そう言われたようでガツンと頭を殴られたみたいになる。
「樹にはずっと私のことだけを見ていて欲しいの。言っている意味、わかる?」
梨花さんに顔を覗き込まれる。まるでその目は“だから邪魔しないでね”とけん制しているようだった。
「私、水城さんがここへ来ているなんて知りませんでしたし、話したこともないんです。昨日、パリメラに行ったのも、たまたまで……」
心にもないことを言って、その場を誤魔化そうとする私は最低だ。けれど、私は波風を立てなくなくて水城さんがここへ来ているのは知らないと嘘をついた。
「そう。それならいいんだけど……あ、もう行かなきゃ。お寛ぎのところごめんね、じゃあまた」
一瞬、胡乱な目をして、忙しなく腕時計をチラッと見ると、梨花さんは何も飲まずに言いたいことだけ言ってその場を後にした。
いったい、なんなの……?
これ以上ここにいたら、訳が分からず泣いてしまいそうだった。叔父に余計な心配をかけたくないし、落ち着きを取り戻すまでしばらく休んでから家に帰ることにした――。