偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
テレビもつけずに一時間ほどリビングでお酒を飲み、空き缶がローテーブルの上にいくつも転がっている。そんな光景をぼーっと眺め、ほどよく酔いが回ってきたところで優香が帰ってきた。

「ただいま~。今日はちょっと遅く……って、愛美! ち、ちょっとなにこれ!?」

帰ってくるなり散乱した空き缶を見て優香が目を丸くしている。

「あ~優香ぁ、お帰り。なにこれって、ひとりで寂しく飲んでただけだよぅ」

私はそんなに普段飲まないほうだけど、今夜は一気に飲み過ぎた。それに店でも飲んできたというのに、梨花さんに言われたことや水城さんのことも全部忘れたくて、私らしくもなくお酒に走ってしまったのだ。

フニャフニャと身体を揺らしてソファに凭れかかって項垂れる。

「もう、帰ったら飲もうと思って買ってきてあったのに、全部飲んじゃって……ねぇ、なんかあったの?」

優香もいつもの私らしくないと思ったのか、バッグを置くと私の前に座った。

「別に~なんでもない」

「あのさ、もしかして今朝の週刊誌のこと……気にしてるでしょ?」

ズバッと図星を指されてしまい、酔った私の頭が一瞬ハッとなった。

梨花さんも優香も、どうしてこんなに察しがいいの?

私ってそんなに顔に出てる?

「週刊誌? なんのこと? 水城さんがあの有名な美人ピアニストと噂になってるなんて、知らないんだから」

「……やっぱり気にしてるんじゃない。ねぇ、あんなの嘘だからね! 信じちゃだめだよ」

「なんで嘘だなんてわかるのよ、優香、なにか知ってるわけ?」

何を根拠に「信じちゃだめ」だなんて言えるのだろう。週刊誌にはちゃんと物的証拠まであるというのに。
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