偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
お、お父……さん?
「今日はずいぶんめかしこんでるじゃないか」
私の姿を見て父は満足げに笑った。いかにも社長らしく、横には美人な秘書を携えている。
十年以上会っていなくても、私はすぐに父だとわかった。記憶の中にある父よりずいぶん皺も白髪も増えた。恰幅のいい体格は昔から変わっていなくて、その優しい声は私の知っている父と重なった。でも、父は私のことをひと目見ても“有坂愛美”であることに気づかなかった。
「水城君はどうした? 彼も忙しい男だからなぁ、まだ仕事が終わらないのか?」
「会場で待ち合わせしてるんだけど……まだみたい」
父とは長い間会話をしていなかった。だから、自分の親だというのに話すだけでも緊張してしまう。思わず敬語が出でしまいそうになるほどに。
「そうか、私はほかにも挨拶回りをしなければならないから、お前はここで水城君を待っているといい。後で合流しよう」
「うん、わかった」
あまり顔を見られたくなくて俯いてしまう。父はそんな私を特に気にも留めずに会場の中へ秘書と一緒に入って行った。
はぁぁ……。緊張した! お父さん、あんまり変わってないね。
娘だというのに気づいてもらえなかった寂しさが一瞬沸き起こる。すると。
「ああ、間に合ったみたいだな。すまない、道が渋滞していて少し遅くなった」
聞き覚えのある声がして顔をあげる。
「あ、水城さん」
「今日はずいぶんめかしこんでるじゃないか」
私の姿を見て父は満足げに笑った。いかにも社長らしく、横には美人な秘書を携えている。
十年以上会っていなくても、私はすぐに父だとわかった。記憶の中にある父よりずいぶん皺も白髪も増えた。恰幅のいい体格は昔から変わっていなくて、その優しい声は私の知っている父と重なった。でも、父は私のことをひと目見ても“有坂愛美”であることに気づかなかった。
「水城君はどうした? 彼も忙しい男だからなぁ、まだ仕事が終わらないのか?」
「会場で待ち合わせしてるんだけど……まだみたい」
父とは長い間会話をしていなかった。だから、自分の親だというのに話すだけでも緊張してしまう。思わず敬語が出でしまいそうになるほどに。
「そうか、私はほかにも挨拶回りをしなければならないから、お前はここで水城君を待っているといい。後で合流しよう」
「うん、わかった」
あまり顔を見られたくなくて俯いてしまう。父はそんな私を特に気にも留めずに会場の中へ秘書と一緒に入って行った。
はぁぁ……。緊張した! お父さん、あんまり変わってないね。
娘だというのに気づいてもらえなかった寂しさが一瞬沸き起こる。すると。
「ああ、間に合ったみたいだな。すまない、道が渋滞していて少し遅くなった」
聞き覚えのある声がして顔をあげる。
「あ、水城さん」