偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「ああ、ここにいたか、人が多いからずいぶん探したぞ」
いつの間にか俯いていた顔をあげると、父がにこにこ顔でやってきた。一緒にいるのは秘書と……父と同じ年くらいの見覚えのある中年男性。
「優香さん、今日はずいぶんと美しいね。あ、“今日も”か、あっはっは」
だ、誰だっけ、この人?
記憶の扉をバンバン開いて、目の前で鷹揚に笑っている男性の顔を思い出そうとする。
「村野社長、お元気そうで」
そのとき、水城さんが偶然にも口にした名前にハッとなる。
そうだ! この人、優香から画像見せてもらったお父さんと一番仲がいいムラノ食品の村野社長だ!
水城さんも、村野社長のこと知ってたんだ。
「村野さん、この度は父の謝恩会にご出席いただいてありがとうございます」
あらかじめ優香から“村野社長”ではなく“村野さん”と普段呼んでいると教えられた。だから、まず村野社長に会ったらお礼の挨拶をして、とも。ここまでは完璧だ。父も村野社長も上機嫌で誰も私が優香じゃないことに気づいていない。
「相変わらず礼儀正しいいいお嬢さんだ。水城君、彼女とお付き合いしていると有坂君から聞いているよ。いずれは結婚を考えているのかな?」
水城さんと握手を交わした村野社長が水城さんに直球の話題を振る。
「あはは、さすがお耳が早いですね。今は慎重に段階を踏んでいるところです」
「なんだ、じれったいなぁ。まぁ、何事も慎重に、だな。急いで事を運ぶことはない。お似合いのふたりじゃないか、なぁ有坂君」
村野社長は父の肩を軽く叩き、お互いにお酒が入っているのか愉快に笑い合っている。
「優香は小さい頃から目に入れても痛くないほど可愛くてな、夜中にひとりでトイレに行けなくてよく起こされたもんだが」
こうして良縁に恵まれて……というように父はしみじみしている。
父は優香との思い出を事細かく覚えているようだった。
いつの間にか俯いていた顔をあげると、父がにこにこ顔でやってきた。一緒にいるのは秘書と……父と同じ年くらいの見覚えのある中年男性。
「優香さん、今日はずいぶんと美しいね。あ、“今日も”か、あっはっは」
だ、誰だっけ、この人?
記憶の扉をバンバン開いて、目の前で鷹揚に笑っている男性の顔を思い出そうとする。
「村野社長、お元気そうで」
そのとき、水城さんが偶然にも口にした名前にハッとなる。
そうだ! この人、優香から画像見せてもらったお父さんと一番仲がいいムラノ食品の村野社長だ!
水城さんも、村野社長のこと知ってたんだ。
「村野さん、この度は父の謝恩会にご出席いただいてありがとうございます」
あらかじめ優香から“村野社長”ではなく“村野さん”と普段呼んでいると教えられた。だから、まず村野社長に会ったらお礼の挨拶をして、とも。ここまでは完璧だ。父も村野社長も上機嫌で誰も私が優香じゃないことに気づいていない。
「相変わらず礼儀正しいいいお嬢さんだ。水城君、彼女とお付き合いしていると有坂君から聞いているよ。いずれは結婚を考えているのかな?」
水城さんと握手を交わした村野社長が水城さんに直球の話題を振る。
「あはは、さすがお耳が早いですね。今は慎重に段階を踏んでいるところです」
「なんだ、じれったいなぁ。まぁ、何事も慎重に、だな。急いで事を運ぶことはない。お似合いのふたりじゃないか、なぁ有坂君」
村野社長は父の肩を軽く叩き、お互いにお酒が入っているのか愉快に笑い合っている。
「優香は小さい頃から目に入れても痛くないほど可愛くてな、夜中にひとりでトイレに行けなくてよく起こされたもんだが」
こうして良縁に恵まれて……というように父はしみじみしている。
父は優香との思い出を事細かく覚えているようだった。