偽恋人からはじまる本気恋愛！～甘美な罠に溺れて～

私のことは、どのくらい覚えているんだろう？

お父さん、本当に私に気づいてないの？　優香じゃないよ、ここにいるのは愛美だよ！

実の娘だというのに、こんなにも近くにいるのに……やっぱり気づいてもらえない。父の中ではもう、有坂愛美という存在はいなくなってしまったのか。

次第に乱れていく気持ちを落ち着かせるため、俯いて無意識に何度も耳朶をいじってしまう。

ふと、顔を上げると父と目が合った。

「優香、耳をどうかしたのか？」

「う、ううん。今日してきたピアスが合わなくてずっと痒いの、平気、なんでもない」

父に言われて、慌ててサッと両手を後ろへ回す。

いけない、いけない。ついクセがでちゃった。

落ち着かなきゃ、と私は小さくふぅと息づいた。

「彼女、少し疲れているみたいで……少しロビーで休ませて頂いてもいいですか？」

「ああ、そうしてくれ。水城君、娘を頼んだよ」

水城さんが丁寧な口調で父に言うと、父は満面の笑顔で休むように促した。

確かに気疲れしているけれど、水城さん、どうしていきなりロビーで休むだなんて言ったんだろう……？

私は人だかりに消えていく父の背中を、切ない気持ちで眺めた。