偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
季節が梅雨なだけにコロコロ天候が変わるのは仕方がないことだ。折り畳み傘くらい持って来ればよかったと思っていると。

「車で来てるから、帰りは送っていくよ。そのつもりでアルコールは飲んでいないんだ」

降り続ける雨を眺める私を気遣って、水城さんがそう言ってくれた。

何から何まで気配りのできる水城さんに、胸が温かくなる。けれど、私が“恋人にはなれません”と言ったら、目の前で微笑んでくれる彼の表情はどうなるだろうか……。

悲しみに顔を歪める? それとも怒りに震える? それとも――。

「ねぇ、あの人、どっかで見たことない?」

「なになに? わっ、すっごいイケメンなんですけど! あー、でも女連れじゃん」

謝恩会の来賓か宿泊客か、ふたりの女性がキャッキャと下世話な話をしながらロビーを通り過ぎて行った。けれど、水城さんは自分のことを言われてるなんて思ってもいないようでじっと窓の外を眺めている。

そうだ、こんなところで私なんかと一緒にいたら……。

「水城さん、ここにいたらまた記事にされちゃうかもしれないですよ」

自分でも驚くくらい低い声で気がついたら私はそんなことを口にしていた。

「え? 記事?」

「先日の“週刊ウェンズデー”見てないんですか?」

なんの話をしているんだ。と言わんばかりに水城さんが意外な顔をして私を見た。

もう言いかけてしまったことだ。いまさら、やっぱり何でもないです。なんて引き返せない。この謝恩会に来た目的を思い出すと、私はごくりと喉を鳴らした。

「水城さん……本当は、木内梨花さんとお付き合いしてるんですよね? 写真も撮られてましたし、隠さなくてもいいですから」

「ちょっと待て、一体なんの話だ?」

水城さんは寝耳に水といったふうに眉を跳ね上げて目を丸くした。
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