偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
「偶然ね、別の階でリサイタルゲストにお呼ばれされて、今ちょうど終わったところなのよ。やっぱり樹もアルコンの謝恩会に来ていたのね。たまたま通りがかっただけなんだけど……」
『たまたま』そう言っているけれど、たぶん梨花さんは水城さんに会いに来たのだろう。
梨花さんはまだ水城さんしか見えていないようで、にこりと笑って髪の毛を掻き上げる。私は咄嗟に顔を下に向けて膝の上でぐっと拳を握りしめた。
どうしよう! 梨花さんは“有坂愛美”を知っている。優香に扮しているとはいえ、こんな近距離で見られたら……。
私のことに気がついて、私がイルブールでピアノ演奏していることを水城さんにもし話したら……終わりだ。
「すまない、今大切な話をしている最中なんだ……」
――だから、席を外してくれないか。というニュアンスを含んだ言葉を遠慮もなくそう言えるのは、よほど気の置けない親しい仲だからだろう。ちらりと見ると、水城さんは第三者に水を差され、バツの悪そうな顔をしている。
「大切な話……あら?」
梨花さんが私に視線を移す気配。ドキドキと心臓が波打ち、今にも口から飛び出そうだ。すると、あろうことか、梨花さんがその場にしゃがみ込んで私の顔を下から覗きこんできた。
「愛美さん? 愛美さんよね? 先日とは違って今夜はずいぶん印象が違うのね」
「え……」
覗き込む梨花さんを見ると、彼女は小さく笑った。
「やっぱり愛美さんじゃない。あなたも謝恩会に? ごめんなさい、一瞬誰だかわからなかったわ」
ち、ちょっとぉー!! なに言ってくれちゃってんのよ! ああ、もう、黙ってよ。
私は心の中で梨花さんにそう叫ぶ。
優香と入れ替わっている事情なんて、梨花さんは知る由もない。悪気はないのはわかっているけれど、水城さんの前でついに隠していた秘密をあっけなくバラされてしまった。
「おい、梨花、いい加減に――」
「樹がイルブールで演奏してる彼女のこと気にしてたみたいだったから……実はこの前店に行っちゃったの、そこで愛美さんと意気投合して……ね、愛美さん」
意気投合? 冗談じゃない、嫌味なことを言いに来ただけじゃない。
『たまたま』そう言っているけれど、たぶん梨花さんは水城さんに会いに来たのだろう。
梨花さんはまだ水城さんしか見えていないようで、にこりと笑って髪の毛を掻き上げる。私は咄嗟に顔を下に向けて膝の上でぐっと拳を握りしめた。
どうしよう! 梨花さんは“有坂愛美”を知っている。優香に扮しているとはいえ、こんな近距離で見られたら……。
私のことに気がついて、私がイルブールでピアノ演奏していることを水城さんにもし話したら……終わりだ。
「すまない、今大切な話をしている最中なんだ……」
――だから、席を外してくれないか。というニュアンスを含んだ言葉を遠慮もなくそう言えるのは、よほど気の置けない親しい仲だからだろう。ちらりと見ると、水城さんは第三者に水を差され、バツの悪そうな顔をしている。
「大切な話……あら?」
梨花さんが私に視線を移す気配。ドキドキと心臓が波打ち、今にも口から飛び出そうだ。すると、あろうことか、梨花さんがその場にしゃがみ込んで私の顔を下から覗きこんできた。
「愛美さん? 愛美さんよね? 先日とは違って今夜はずいぶん印象が違うのね」
「え……」
覗き込む梨花さんを見ると、彼女は小さく笑った。
「やっぱり愛美さんじゃない。あなたも謝恩会に? ごめんなさい、一瞬誰だかわからなかったわ」
ち、ちょっとぉー!! なに言ってくれちゃってんのよ! ああ、もう、黙ってよ。
私は心の中で梨花さんにそう叫ぶ。
優香と入れ替わっている事情なんて、梨花さんは知る由もない。悪気はないのはわかっているけれど、水城さんの前でついに隠していた秘密をあっけなくバラされてしまった。
「おい、梨花、いい加減に――」
「樹がイルブールで演奏してる彼女のこと気にしてたみたいだったから……実はこの前店に行っちゃったの、そこで愛美さんと意気投合して……ね、愛美さん」
意気投合? 冗談じゃない、嫌味なことを言いに来ただけじゃない。