ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
第一話 異世界トリップと仕立て屋スティルハート
 むかしむかし、小さいころ。おばあちゃんの経営するブティックは、私の遊び場だった。

 お姫さまみたいなロングスカートやワンピース。シルクのブラウスに、レースたっぷりのコサージュ。きらきら光るアクセサリーと、外の世界を夢見る靴たち。

 新しいお洋服を手にしたお客さまたちはみんな笑顔で帰り、そんな場所の主であるおばあちゃんは、シンデレラの魔法使いみたいだと思っていた。

 私も大きくなったら、自分だけのお店を作るんだ。素敵なお洋服をたくさん置いて、来た人みんなをしあわせにするんだ。――そう、魔法にかけられたみたいに。

 それがずっと、私の夢だった。小学校の卒業文集にも『お洋服屋さんになりたい』と書いたし、大学だって家政学部を選んだ。

 おばあちゃんが亡くなってブティックが取り壊されることになっても、私は夢をあきらめていなかった。『いつか自分のお店を持って、おばあちゃんのブティックの名前をつける』――大好きなおばあちゃんを亡くした私にとって、その目標が心の支えになっていた。

 灰色の就職活動を終え、さほど大きくないアパレル会社に就職したあとも、私は夢と希望に満ち溢れていた。これから店頭に立って、たくさんのお客さまを笑顔にするんだ。そして開店資金がたまったころに独立できたら……。そんな人生設計に酔いしれていた。

 自分の歩いてきた道を疑ったことなんてなかったし、後悔したり挫折するときが来るなんて、思ってもみなかった。だって、好きなことをやっているんだから。好きなものに囲まれて働いているんだから。それなのにつらいなんて、おかしいでしょ?

 そんなふうに思っていた私は、まだ社会のことも人生のことも何も知らない、まっさらな夢に目をきらきら輝かせただけの、子どもだったのだ。
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