ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 今年の営業が始まってしばらくしたころ、意外なお客さまがやって来た。

「ねえ、ケイト。さっきからお店の外をうろうろしている女性がいるんだけど……。声をかけたほうがいいのかしら?」

 窓の外を見ていたクラレットが、首を傾げながら私にたずねた。

「入ろうかどうか迷っているお客さまなんじゃないの?」

「それが、見た感じ貴族じゃないみたいなのよ」

 どれどれ、と言いながら私も窓のそばに近寄る。

 険しい顔でお店の前を何度も往復しているその子は、ほんのひと月前に至近距離で見たことのある顔だった。

「あ、あの子……」

「あなたの知り合い?」

「知り合いというか……。セピアくんの行きつけのレストランのウエイトレスさん」

 これは私が声をかけたほうがいいのだろうか、と迷っていたら、女の子は意を決したように扉まで歩いてきた。

 あわてて、クラレットとお客さまを迎える位置につく。スタンバイすると同時に、扉がスローモーションのようにゆっくりと開いた。

「あの……。こんにちは」

 ためらいが滲んだようなドアベルの音と共に、こわばった顔つきの女の子が入ってくる。令嬢の歌うような「こんにちは」とは違う、硬くて低い声。

 今日はウエイトレス服ではなく、木綿のシンプルなドレスの上に厚手のジャケットを着ていた。これはこれで素朴でかわいいと思うのに、ぱっと見て貴族ではないと判断されてしまうのはさびしいところ。

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