ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「ああ。どうして若い令嬢が多いのか、とさっき聞かれたな」

「側室を吟味するため、ですよね?」

「そう思っていたのだが、違うかもしれない」

「どういうことですか?」

 私が尋ねると、アッシュは遠くを見るようにしてホールに目をやった。

「他の晩餐会や舞踏会では、もっと年上のものが中心になるだろう。どうしてもマナーや教養に厳しくなるし、社交慣れしていない若い令嬢は気後れしてしまうことが多い。でもここでは、同じ年代の者が多いから肩の力を抜いているように見える」

「確かに。特に王子がいなくなってからは、わきあいあいとした雰囲気になってますね」

 エリザベスさまの晩餐会では、男女で別れることなくつねにパートナーと行動を共にする人が多かった。他の同性と長話している人はあまり見かけなかったし、話したとしてももっとかしこまった感じだった。年配貴族の目が光っていたというのもひとつの原因だろう。

「第二王子は、社交界デビューする令嬢を慣れさせるために、こういった場を提供しているんじゃないか、早々に本人が退散してしまったのもそのためじゃないか、と感じた」

「……そんな。でも確かに、つじつまは合います……」

 側室を吟味する目的なら、私としか踊らなかったのはおかしい。

 同世代の女性が集まるこの場で友人を作っておけば、これから先参加するいろんな晩餐会や舞踏会が楽になるはずだ。貴族だって、知り合いがいたほうが気持ち的に楽に決まってる。

 あの王子は本当に底が見えないけれど、私が思っているより『国民』のために動いているのだということはわかった。

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