ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「……動いたせいで熱いな」
首元に窮屈そうに指を入れながら、アッシュが息をついた。
「君、すまないがもう一杯もらえるか。ああ、その赤ワインではなくそっちの……」
黒服に注文をつけて、三杯目になる白ワインをごくごくと飲み干す。
「あの、大丈夫ですか? そんなに一気に飲んで」
「問題ない。水だろう、これは。フルーティーな風味はするが、レモンでも浮かべてあったのだろう」
「えっ」
驚いてアッシュを見上げるが、耳がほんのり赤くなっている。自分で気付いていないのだろうか。
「ち、違いますよ、たぶん。水だったら他の黒服が形の違うグラスに入れて配っていましたし。アッシュさんがさっきから飲んでいたのは、白ワイン……」
「――え?」
私の顔と、空になったグラスを、アッシュが交互に見る。おそるおそる、グラスに鼻を近づけて匂いを確認したあと、額を押さえてうつむいた。
「まずい。油断した。どうして気付かなかったんだ。場慣れしていないせいで舌が緊張して、味がわからなかった」
「あ、アッシュさん?」
油断、とか、緊張、とか、およそアッシュには似合わないような言葉が飛び出して、混乱してしまう。
「すまない。俺は酒に弱いんだ。今まで人前では飲まないようにしていた。つまり……」
「つ、つまり?」
「――酔ったみたいだ」
茹でたエビが急に色を変えるみたいに、アッシュの顔がしゅわっと赤くなる。
呆然とその様子を見つめていると、アッシュがふらりと倒れ込んできた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫ですか?」
思わず抱きとめてしまったが、重い。私の肩の上に顎を載せるようにして、アッシュが荒い息を繰り返している。
「大丈夫じゃ、ないようだ」
「えええ……」
近くにいた貴族が、「まあ!」という顔でこちらを見てくる。カップルがいちゃついていると思われたらしい。
「ああ、もう、どうしたら……!」
私は心の中で、『一難去ってはまた一難』というもとの世界のなつかしい諺ことわざを思い浮かべていた。
首元に窮屈そうに指を入れながら、アッシュが息をついた。
「君、すまないがもう一杯もらえるか。ああ、その赤ワインではなくそっちの……」
黒服に注文をつけて、三杯目になる白ワインをごくごくと飲み干す。
「あの、大丈夫ですか? そんなに一気に飲んで」
「問題ない。水だろう、これは。フルーティーな風味はするが、レモンでも浮かべてあったのだろう」
「えっ」
驚いてアッシュを見上げるが、耳がほんのり赤くなっている。自分で気付いていないのだろうか。
「ち、違いますよ、たぶん。水だったら他の黒服が形の違うグラスに入れて配っていましたし。アッシュさんがさっきから飲んでいたのは、白ワイン……」
「――え?」
私の顔と、空になったグラスを、アッシュが交互に見る。おそるおそる、グラスに鼻を近づけて匂いを確認したあと、額を押さえてうつむいた。
「まずい。油断した。どうして気付かなかったんだ。場慣れしていないせいで舌が緊張して、味がわからなかった」
「あ、アッシュさん?」
油断、とか、緊張、とか、およそアッシュには似合わないような言葉が飛び出して、混乱してしまう。
「すまない。俺は酒に弱いんだ。今まで人前では飲まないようにしていた。つまり……」
「つ、つまり?」
「――酔ったみたいだ」
茹でたエビが急に色を変えるみたいに、アッシュの顔がしゅわっと赤くなる。
呆然とその様子を見つめていると、アッシュがふらりと倒れ込んできた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫ですか?」
思わず抱きとめてしまったが、重い。私の肩の上に顎を載せるようにして、アッシュが荒い息を繰り返している。
「大丈夫じゃ、ないようだ」
「えええ……」
近くにいた貴族が、「まあ!」という顔でこちらを見てくる。カップルがいちゃついていると思われたらしい。
「ああ、もう、どうしたら……!」
私は心の中で、『一難去ってはまた一難』というもとの世界のなつかしい諺ことわざを思い浮かべていた。