ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 姿勢を正したアッシュと、対面のソファに座り直した私の間には、気まずい沈黙が流れていた。

「人に無理やりキスしておいて謝るなんて、どういうことですか。女のプライドを粉々にして楽しいですか」

 冷たく言い放つと、アッシュは苦渋に顔を歪めた。腹切り前の武士みたいな物々しい表情だけれど、反省されればされるほど余計に腹が立つ。

 こっちは途中からアッシュのキスを受け入れてしまったというのに、これでは私だけが恥ずかしいではないか。

「……本当に、すまない。今まで酒を飲まないようにしていたのも、こうなってしまったのにも理由があるんだ。ここまでして隠しておくことはできないから、懺悔だと思って聞いてくれないか」

 あの絶対零度男が、下手したてに出ている。今はその面影もなく溶けかけの氷みたいだ。

 適当な言い訳だったら許さない、と思いながら渋々うなずいた。

「何から話せばいいのか……。人に話すのは初めてのことだから、わかりにくかったらすまない」

 ぽつぽつと、慎重に言葉を選びながら、アッシュは話し始めた。

「俺は、俺たち兄弟は、幼少期から人を魅了してしまう性質を持っていたんだ。人は俺たちに好意を持ちやすく、どんな大人からもかわいがられた」

「えっ、それは見た目がかっこいいから、とかそういうことですか?」

「いや……外見の問題だけではないらしい。人に聞いたところによれば、甘い匂いがすることがあるそうだ。ケイトも感じたことはないか?」

「……あります。さっきも……」

 普通に聞いたら信じられないような話だが、何度もそれを実体験している私はうなずくしかない。
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