ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
エピローグ 仕立て屋王子と魔法のクローゼット
その後。異世界トリップする前と変わらない穏やかな日々が、毎日続いている。
他のスタッフにもじゅうぶんお詫びをし、生まれ変わったように働く私を、店長は「本当に神隠しにあったのでは」「やっぱりどこか頭を打ったんじゃ」と心配していたが、その表情はどこか嬉しそうだった。
空いている時間に話をするようになって、店長ともだいぶわかりあえてきた。お互い誤解していた部分を洗い出すと、似たもの同士の不器用さがわかって笑ってしまった。
あんなに息苦しかった職場が、今では自分が一番自分らしくいられる場所になっている。
有栖川さまがショップに来てくれることはもうないけれど、たくさんの新しい出会いが私を待っている。ひとりひとりのお客さまと向き合って、関係を作っていけたらいい。
それが『仕立て屋スティルハート』が、私に教えてくれたことだから――。
そんな日々が数か月ほど過ぎた、ある日のこと。
ショッピングモールが妙にきゃあきゃあと騒がしかった。
「今日って、誰か有名人が来る日でしたっけ」
首をひねりながら、マネキンの服を替えている店長に尋ねる。
アイドルが特設ステージでミニライブをしたり、地元のゆるキャラがPRをしたりといったイベントが、土日に行われることもある。
「さあ。でも今日は何もなかったと思うけれど……。プライベートで芸能人でも来ているのかしら」
ショップの前を通りがかった女の子たちが、興奮しながら話している。
「ぜったい、海外の有名な俳優さんだって! すっごいイケメンだったもん!」
「ええ~、やっぱり、握手してもらえば良かったね」
「映画の衣装みたいなのを着ていたし、急いでいたし、撮影だったんじゃないの?」
「そうかも。あ~でも、ほんとにかっこよかったあ。黒い髪に青い目の人なんて初めて見たよ。カラコンかなあ」
心臓が、痛いくらい激しくドキドキと脈打つ。身体の体温が、一気に上がるのを感じた。
他のスタッフにもじゅうぶんお詫びをし、生まれ変わったように働く私を、店長は「本当に神隠しにあったのでは」「やっぱりどこか頭を打ったんじゃ」と心配していたが、その表情はどこか嬉しそうだった。
空いている時間に話をするようになって、店長ともだいぶわかりあえてきた。お互い誤解していた部分を洗い出すと、似たもの同士の不器用さがわかって笑ってしまった。
あんなに息苦しかった職場が、今では自分が一番自分らしくいられる場所になっている。
有栖川さまがショップに来てくれることはもうないけれど、たくさんの新しい出会いが私を待っている。ひとりひとりのお客さまと向き合って、関係を作っていけたらいい。
それが『仕立て屋スティルハート』が、私に教えてくれたことだから――。
そんな日々が数か月ほど過ぎた、ある日のこと。
ショッピングモールが妙にきゃあきゃあと騒がしかった。
「今日って、誰か有名人が来る日でしたっけ」
首をひねりながら、マネキンの服を替えている店長に尋ねる。
アイドルが特設ステージでミニライブをしたり、地元のゆるキャラがPRをしたりといったイベントが、土日に行われることもある。
「さあ。でも今日は何もなかったと思うけれど……。プライベートで芸能人でも来ているのかしら」
ショップの前を通りがかった女の子たちが、興奮しながら話している。
「ぜったい、海外の有名な俳優さんだって! すっごいイケメンだったもん!」
「ええ~、やっぱり、握手してもらえば良かったね」
「映画の衣装みたいなのを着ていたし、急いでいたし、撮影だったんじゃないの?」
「そうかも。あ~でも、ほんとにかっこよかったあ。黒い髪に青い目の人なんて初めて見たよ。カラコンかなあ」
心臓が、痛いくらい激しくドキドキと脈打つ。身体の体温が、一気に上がるのを感じた。