ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「クラレットは俺の弟だ。スティルハート家の次男」

「えええ……!? どうみても美女としか……」

 確かに声が少しハスキーだな、とは思ったけれど……。そういえば、立ち襟のドレスは喉仏を隠しているし、パフスリーブは肩幅、ふわりと広がったスカート部分は腰回りをカバーするようにデザインされている。

「信じられないみたいね。何なら証拠を見せましょうか?」

「い、いえ、大丈夫です!」

 クラレットが眉を吊り上げながらスカートを持ち上げたので、あわてて首を振った。

「僕は三男だよ。兄弟三人でこの店を経営しているんだ」

「両親がいなくなってからは、俺がオーナーということになっている」

 アッシュの歳は分からないが、私より少し上くらいだと思う。まだ若いのに三人で経営しているなんて、大変なこともあっただろう。

「作るのも、三人でやってらっしゃるんですか……?」

「ああ。俺がデザインと、メインの縫製担当」

「僕は型紙と、サブのお針子だね」

「……私は売り子と、仕入れを担当しているわ」

 ここにかかっているドレスはどれも繊細で、女心を絶妙にくすぐって、クラシカルなドレスによくある野暮ったさはまったく感じなかった。もとの世界の一流ブランドと比べても遜色ないと思う。

 これを、アッシュがデザインしたなんて。

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