ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「女性の売り子がいたほうがいいとは思っていたんだ。いくらクラレットの女装姿が受け入れられているとは言っても、中身は男だ。採寸で下着姿になるのを恥ずかしがっていた令嬢もいただろう」

「それは、そうだけど……」

「僕は賛成だよ。ケイトの着ている服おもしろいし、今後のデザインの参考になりそう」

 セピアはアッシュにまとわりついたあと、私に向かってこっそりウインクしてくれた。

「ケイト。君はどうなんだ。ここで働くことになってもいいのか?」

 ブルーグレーの瞳が私を見つめる。問いかけてはいるけれど、その表情は落ち着き払っていて、アッシュにはすでに返事がわかっているように思えた。

 どうしよう、胸がドキドキする。誰かに期待されることがこんなに嬉しいものだなんて、忘れていた。

「私――、ここで働きたいです!」

 心臓の音をかき消すように上げた自分の声を、ふわふわした気持ちで聞く。

 この店は、洋服が好きだという気持ちを思い出させてくれた。外観にも、ドレスにも、ひと目で心を奪われた。

 好きなものに囲まれて働きたい。だったら、この店じゃないと駄目だと思えた。

「三対一だ。どうする、クラレット」

 アッシュが腕を組みながら、クラレットをじっと見つめる。

「……もうっ、いいわよそれでっ!」

 しばし睨みあったあと、クラレットが根負けしたように叫んだ。

「そのかわり教育係は私にまかせてちょうだいね。今のままの姿じゃ、とてもお店に立たせられないわ」

「ああ、わかった」

「美意識が変わるくらい改造してあげるから、覚悟しなさい」

「はい。みなさん、これからよろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。なんだか、入社式のことを思い出した。緊張よりも楽しみや希望のほうが勝っていたあの頃。
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