ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 クラレットは何とも思っていないような顔で巻尺を用意していた。ここで恥ずかしがっていたら余計に気まずい思いをしそうだ。クラレットはほぼ女性なのだから、別に恥ずかしがることはない。そう思って服に手をかけたのだが……。

「ちょっと待って。その恰好は何?」

 ブラジャーとショーツ姿になったところで、クラレットが顔を手でおおった。

「何って、下着だけど」

「シュミーズとドロワーズじゃないの? はしたないわよ、早く服を着なさい!」

「ええっ、だって、そっちが下着になれって」

「そんな下着だと思わなかったのよ!」

 結局、クラレットがキャミソールみたいな下着とかぼちゃパンツのようなものを持ってきてくれて、それに着替えてから採寸をした。文化の違いだけで痴女のような扱いをされたことは誠に遺憾である。

「採寸も終わったことだし、出かけましょうか」

「お店を離れても大丈夫なの?」

「ええ。今日はもうお客さまの予約は入っていないし、仕入れに付き合ってもらうわよ。あとはあなたのお化粧もなんとかしないとねえ……。そのけばけばしいまつ毛はどうなっているの?」

「ああ、つけまつ毛のこと? 糊で人口のまつ毛をつけてあるの。こんなふうに外せるんだけど――」

「ひいっ、気持ち悪い!」

 ぺりぺりと外したつけまつ毛を見せると、クラレットは虫を追い払うように手を振った。確かに、ゲジゲジに似ているかもしれないけれど。

「あとあなた、黒目もやたら大きくない? 異世界人だから?」

「これはカラコンを入れているから。黒目を大きく見せたり色を変えられるレンズみたいなもので……」

「全部取ってちょうだい! うちのドレスには、余計な人工物は似合わないわ。女性の自然な美しさを惹き立てるためのドレスだもの」

 クラレットの言葉に、思いがけず感動してしまった。つけまつ毛も、カラーコンタクトも、ジェルネイルも、周りがしていたからやっていた。過剰なメイクにうんざりするときもあって、すっぴんで過ごす休日にほっとしたりしたけれど、メイクで武装しないと戦場には出られなかった。

 おしゃれも、メイクも、人の視線を跳ね返すためにしていた。でもここでは、そうじゃないんだ。
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