ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 * * *

「じゃあ、これを持って」

「うっ、重い」

 生地やらレースやらビーズやらを買いこんだクラレットに、荷物を渡される。ずしんと腕が重くなって、ふだんの運動不足が身につまされた。

「なあに、貧弱ねえ。せっかく軽い荷物にしてあげたのに。ちょっと貸しなさい」

 重みで沈んでいた腕が、ふっと軽くなる。私より大量の荷物を持っていたはずのクラレットなのに、ひょいと半分の量を奪っていってしまった。見た目が美女でもやっぱり男の人なんだとドキッとする。

「なによ、じろじろ見て」

「あっ、ううん。鍛えてるんだなと思って」

「当たり前でしょ。力仕事をするときもあるし、何より筋肉のないだるだるした身体なんて美意識が許さないもの。ケイトは……、一見細いけれどそれ全部脂肪でしょう。歳をとったあとにたるむから、今から鍛えておいたほうがいいわよ」

「うっ、善処します」

「じゃあ次はアクセサリーを見るわよ。宝石店に行きましょう」

 いかめしい黒服が佇む宝石店の入り口に着くと、なぜか裏口に通された。正面の豪奢な扉と違って簡素な作りである。

「どうして正面から入らないの? 業者だから?」

「馬鹿ね。正面の入り口は貴族限定なの。私たちは爵位があると言っても労働者階級だし、実際にお金を出すのはお客さまだから、正面入り口を使うわけにはいかないのよ」

「そうなんだ……」

 入るお店は同じなのに、めんどくさい決まりだ。世界史で習った身分制度をちらっと思い出す。貴族とか、階級とか、現代日本にはないものだが大変そうだ。この世界の人は生きづらくはないのだろうか。
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