ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 お店の中はえんじ色のカーペットが敷かれており、確かに庶民には入りづらい雰囲気だった。きっとお値段も高価なのだろう。

「身分の差って、そんなに激しいの?」

 ショーケースの中のネックレスを物色しているクラレットに、小声で尋ねる。

「昔は厳しかったけど、最近はそうでもないわよ。今の国王さまに変わってから、だいぶ改革されたのよ。第二王子が革新的な人でね、労働者階級でも孤児でも、気に入った女性なら気にせず側室にしてしまうから」

「すごい人なんだね」

「まあ、女好きっていう見方もあるけれど、英雄的な扱いをされることのほうが多いわね」

 私がアッシュに連れていってもらったお城、あの堅牢な建物の中で王さまや王子さまが生活しているのか。王子さまと言うならアッシュだってそれっぽい雰囲気だが、この世界にいる間に本物の王子さまを一目は見てみたい。

「これにしようかしら。でもシンプルすぎてエリザベスさまには物足りないのよね」

 クラレットが、しずく形の真珠がぐるりとついたネックレスと、おそろいのイヤリングの前で悩んでいる。首回り全体を覆うかたちでたくさんの真珠がついているけれど、他のアクセサリーに比べたら確かにおとなしい気がする。

「エリザベスさま用のアクセサリーなの?」

「そうよ。晩餐会用のドレスで、今回のテーマは『明るい湖畔』ですって」

「すてき……」

 明るい水色のドレス、明るい湖畔。ドレスを着て水辺に佇むエリザベスさまが目に浮かぶようだ。確かにこれは、ルビーやサファイヤのアクセサリーじゃ駄目だ。真珠でなくては。

「ねえ、このアクセサリーをアレンジするのって駄目なの?」

「できないことはないけれど……。どうするつもり?」

「白い羽飾りをつけたらどうかなって。イヤリングも、羽ときらきらした宝石なんかをつけて、長さを出したらかわいいんじゃないかな。白い羽と真珠を合わせたら、白鳥と水のしずくのようになって素敵だと思ったんだけど」

 湖といったら白鳥、のイメージだった。単純な発想だったけれど、悪くないアイディアだと思う。

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