ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「ただいま戻りました――」

 お店の扉を開けると、やたらきらきらしたオーラの男性が目に飛び込んできた。

「やあ、こんにちは」

 金髪碧眼、白っぽいフロックコートという、まさに王子さまのような出で立ち。同じ美形でも、アッシュの彫刻めいた美貌とは違う華やかさがあった。エレガント、と形容したらいいのだろうか。

「あ、あら……ウォルさま。来ていらっしゃったんですね」

 クラレットが、少し緊張したように笑顔を作る。

「贈り物のドレスのことを相談にね。クラレットがいなかったから、アッシュに聞いてもらっていたんだよ」

 あまり表には出ないと言っていたアッシュが、ウォルの隣にぴったりくっついている。どうやら、布地の棚を物色していたようだ。セピアは裏で作業しているのだろう。

「ねえ、君。ちょっといいかい?」

 手袋をはめた指に、ちょいちょいと手招きされる。

「わ、私ですか?」

「うん。君とは初対面だよね。名前は何ていうの?」

「ケイトです」

「ウォルさま。ケイトは異世界人で、今日からうちの従業員になりました」

 ウォルの隣でかしずくように待機していたアッシュが、口を添える。

「へえ、そうなんだ。珍しいね。異世界人ははじめて見るよ」

 さりげなく、全身を観察されている。少しもいやらしい感じはしないのだけれど、なぜだかぴりっとする緊張感があった。

「よろしくケイト。私のことは、ウォルとでも呼んでくれればいいよ」

 そう言って、ウォルは私の手に口づけをした。

「――っ!?」

「おやおや、真っ赤になっちゃって、初々しいね。気に入ってしまったよ」

 口づけされた手の甲からじわじわと熱が広がっていって、頭がパンクしそうだった。こんな王子さまみたいなことを実際にする人がいるなんて。
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