ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「あら……。悪いこと聞いてしまったわね。ごめんなさい」

「いえ、いいんです。もうだいぶふっきれましたし」

 嘘だった。自分がモテないことは本当だったけれど、そのぶん好きになった人には執着してしまうタイプだった。問題なのは外からはそう見えないことで、振られてしまった彼氏にも『お前は強いもんな。俺と別れたことも、何とも思っていないんだろ』と言われてしまった。

「だったら、うちの息子なんてどうかしら。あなたみたいな子が恋人になってくれたら、私は大歓迎なんだけれど」

「えっ、有栖川さまのお子さんって、そんなに大きいんですか?」

「ええ。あなたと変わらないくらいだと思うわ」

「全然そんなふうに見えないです……。まだ小学生くらいかと」

「あら、そんなに褒めても何も出ないわよ」

 美しい顔に手を添えて笑う有栖川さまは、スタッフの間でも謎の人だった。日本人離れした顔とスタイル、毎月新作を大量に買っていく経済力。そして年齢不詳なところ。こういう人を、美魔女というのかもしれない。

「有栖川さまのお子さんなら、すごく美形なんでしょうね」

「まあ、私が言うのも何だけど、顔は悪くないのよ。ただ女っ気がまったくないのよね。本当に、桜井さんがお嫁に来てくれたらいいんだけど」

 こんなふうに、自分自身を気に入ってもらえるのは嬉しい。だけど、店頭に立っているときの自分とプライベートの自分は違う。ふだんはこんなに愛想も良くないし、全面的に相手を立てて話すこともない。お客さまが慕ってくれているのは『店員としての自分』であって、決して『桜井恵都(けいと)』そのものじゃない。そんなことはよく分かっている。
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