ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「家にあったサンプルに、君に似合いそうなものがあった。サイズも近かったので軽く直すだけですんだ」

「ありがとうございます。でも、似合いそうって言っても、私にこんな可愛いの……」

 子どもの頃は、ひらひらしたスカートもピンク色も大好きだった。でも大人になってからは、キャラじゃないと言われるのが怖くて甘めのファッションはして来なかった。フレアスカートよりタイトスカート。ワンピースよりサロペット。本当は可愛い服が似合う女の子にずっと憧れていたのに。

「大丈夫だ。俺が作ったんだから、似合うに決まっている」

 アッシュの言葉に、胸の奥がぎゅうっと掴まれた。

「ケイト。アッシュの腕を信じなさいよ」

「そうだよ。アッシュが似合うって言って似合わなかったことなんてないんだから」

 クラレットとセピアの言葉も、背中を押してくれる。

「早く着替えてこい。サイズが大丈夫かどうか見たい」

「……はい」

 子どものころ、おばあちゃんのブティックでお姫様ごっこしていたことを思い出す。ロングスカートを胸まで上げて、ずるずる引きずっていた。

 お母さんは悲鳴をあげたけれど、おばあちゃんは怒ることなく『こうするともっとお姫様みたいになるよ』とコサージュをつけてくれた。あの頃の私が、胸の奥の扉をノックしている。早くこのドレスが着てみたいって。

「ケイト、ひとりで着られる? 手伝いましょうか?」

 採寸室の扉を、クラレットがノックする。ドレスを着終えたのはいいものの、みんなの前に出ていくのが恥ずかしくなっていた。だって、どんな顔をしていいのかわからない。

「大丈夫。着終わった、から……」

「着終わったなら、早く出てこい」

 アッシュがいらいらした声で促す。いつまでも引きこもっているわけにいかないので、おそるおそる扉を開けた。
< 49 / 218 >

この作品をシェア

pagetop