ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
第三話 晩餐会のワルツとクラレットの恋
『仕立て屋スティルハート』での日々は、穏やかに、ごく自然にはじまった。毎日来るお客さまの顔と名前を覚えたり、クラレットの仕入れに付き合ったり、合間にお茶を淹れたり。覚えることは多いけれど、目が回るほど忙しいわけじゃない。ほっと一息をつく時間はじゅうぶんにある、そんなありふれた日常。

 好きな仕事をしているだけでこんなに気持ちが落ち着くなんて思っていなかった。異世界にいるという違和感は最初だけだったし、今はこの世界も肌に馴染んでいる気がする。

 お店に来るお客さまたちがみんな親切にしてくれることや、クラレットの面倒見がいいことも早くなじめた大きな一因だと思う。

 私がこの世界に来て、一か月。トリップしたその日からずっと関わってきた、エリザベスさまのドレスが完成した。

「すごくきれいです、エリザベスさま……」

 採寸室からクラレットと共に出てきたエリザベスさまは、輝くように美しかった。

「ありがとう、ケイト」

 広く開いた胸元には、パールを縫い付けたシフォン素材の襟がぐるりとあしらわれており、パフスリーブの袖も同じ素材で、エリザベスさまの華奢な二の腕がわずかに透けて見える。

 たゆたう水面のように幾重にも重なったドレープは、腰から足首にかけて自然に広がってゆく。

 驚いたのは、裾に白い羽とパールが縫い付けてあること。私がアイディアを出したアクセサリーに合わせたらしい。まるで、水面を散歩する妖精のドレスが水飛沫を浴びたよう。

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