ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「あなた……。そんなに食い意地がはっているの?」

「違うから! こっちの世界に来てからずっと簡単な自炊ばっかりだから、外食が恋しくて」

 またお説教されてしまいそうだったので、あわてて説明する。

 和食や手のこんだ料理も恋しい。IHクッキングヒーターもなければ電子レンジもない世界なので、簡単な炒めものやスープしか作れていない。コンソメキューブもないせいで塩味になってしまったポトフには、もう飽き飽きだ。

「お給料はちゃんとあげているんだから、たまには外食してみなさいよ。お金を貯めるのに必死なのは分かるけれど、生活の余裕のなさって外見にも現れるものよ」

「嘘、そんなに分かる?」

「環境が変わったせいもあると思うけれど、ここに来たばかりのときよりカッサカサよ、あなた」

「だって、化粧水から何からぜんぶ違うんだもの、仕方ないじゃない!」

 自分でも、肌の調子が良くないのはわかっていた。こんなことになると知っていたなら、高級美容液やパックをポーチに入れておいたのに。

「今まで肌を甘やかしすぎたのね。私だって同じものを使っているけれど、ご覧のとおりつやつやよ」

 クラレットが自慢げに胸を張る。それを言われてしまうと何も言えないのが悔しい。とりあえず、毎日の食事をもっと充実させるところから頑張ろうと思った。健康ではなく、美容のために。
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