ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 広々としたホールは、個人のお屋敷というより結婚式場みたいだ。お酒を配る黒服が何人も待機し、室内楽の生演奏もある。見上げる天井にはイミテーションではないシャンデリアがいくつも下がっていて、眩暈を起こしそう。

「ケイト。前から気になっていたんだけど」

 挨拶という第一関門を突破し、ほっとした気持ちでシャンパンを受け取ると、クラレットが険しい顔で振り向いた。

「あなた、仕事は真面目にやっているのに褒められると困惑するわよね」

「えっ……」

 ホールのざわめきが、一瞬だけ遠ざかった。クラレットの硬い声だけが、やけにはっきりと耳に残る。

「ドレスやお店について褒められたときには素直に受け取っているのに、自分の接客について褒められたときだけ否定するわよね」

 あまりにも直球すぎるクラレットの指摘に、心臓がいやな音をたてる。

「それは……」

「何があったのか知らないけれど、お客さまに言われたことは素直に受け取ってちょうだい。みんな謙遜を求めているわけじゃないんだから。微笑んでありがとう、も言えないなら売り子失格よ」

 踵を返すクラレットに、何も言えなかった。

 店長から言われた言葉が刺になって、自分の心にずっと刺さっていた。それを抜くこともせずにほうっておいたら、どんどん卑屈になっていた。

 それは店長のせいじゃない、自分のせいだ。化膿してしまった心を見てみぬふりしてきた自分のせい。

 そのせいでお客さまやクラレットにいやな思いをさせていたなんて、私はやっぱり、自分のことしか考えていなかった。

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