ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 私はぽつぽつと、入社当時から店長と意見が合わなかったこと、ひとりだけきつく当たられていたこと、あの日言われた言葉についても、アッシュに話しはじめた。

 アッシュは時折うなずきながら、ただ黙って聞いてくれた。それがなんだか、無性に嬉しかった。

「……これで、ぜんぶです」

 ひととおり話し終わると、喉がからからになっていた。ティーコゼーのかかっていたポットから、紅茶を注ぎ足す。あたたかなミルクティーから出る湯気が、アッシュの姿に重なった。

「君の話はよくわかった。でも何か……引っかかることがあるな」

 同じようにミルクティーでひと息ついたアッシュが、カップを置いて指を組んだ。

「引っかかる?」

「ああ。君の話を聞く限り、店長は経営者側の視点を持った人間のようだ。君だけに厳しくしていたのも、期待をしていたからだろう。俺も同じ側の人間だからわかるが、言っても理解できない人間にわざわざ注意することはない」

「そう……なんですか?」

「だとすると、接客のことを注意されたのも、言葉にしたこと以外の意味があるんじゃないか? ただ単に君を批判したかっただけではない気がする。話を聞けばわかり合えたんじゃないか? 君と店長は考え方の方向性は違うものの、似たタイプの人間だと俺は思う。俺たち兄弟がそうであるように」

 私と店長が似ている? 言われて思い返してみれば、気が強く見られるところも、自分の仕事を人には頼めない甘え下手なところも、体調が悪くても無理をしてしまう不器用なところも、同じだった。どうして今まで気付かなかったんだろう。
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