ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「やあ、こんにちは」

 この日は女性のお客様は少なかったけれど、ウォルが顔を出した。白いタキシードに黒の外套を羽織っている。

「ウォルさま、お久しぶりです」

 クラレットがうやうやしく外套を預かって、入り口にあるコート掛けに着せかける。

「特に用事はないんだけど、頼んでいたドレスの進捗が気になって寄ってしまったよ」

 相変わらずの、優雅な発声、余裕のある話し方。大げさな身振り手振りはないのに目を引く舞台役者のようだ。

「新年の贈り物用のドレスですね。順調に仕上がっていますわ。年明けにはじゅうぶん間に合うと思います」

「そう、それなら良かった。毎年たくさん注文してしまってすまないね」

「いえ、毎年ありがとうございます」

 進捗を報告したクラレットが深々とお辞儀する。

 この世界には、当たり前だけどクリスマスはなかった。そのかわり新年を盛大に祝うらしい。恋人や家族にも新年の贈り物をするらしく、ウォルは毎年たくさんのドレスを注文してくれる――というのはクラレットに聞いた情報。

「やあ、ケイト。元気だったかい? この国の冬には慣れた?」

「はい。もとの世界も同じくらいの気温だったので」

「それなら良かった」

「それにしても、ウォルさまは家族がとても多いんですね。ドレスの数が多かったからびっくりしてしまいました」

 微笑むウォルに対し、素朴な感想を口にする。

 どうしてこんなにドレスの注文が多いのか、不思議に思っていた。姉妹が多いのか、もしくは叔母やいとこも一緒に住んでいたりするのだろうか。ウォルはすごい貴族らしいから、家もきっと大きいのだろう。

 私の言葉を聞いたクラレットが焦った表情で振り向く。

「ちょっ……、馬鹿!」

 なぜか小声で叱られてしまった。

「ふふ、そうなんだよ。女性の家族が多いから、大変なんだ」

 触れてはいけないことだったのだろうか……と冷や汗を流したのだが、ウォルは愉快そうに私を見つめて微笑んでいる。気分を害したわけではなさそうで、ほっと胸をなで下ろした。
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