ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
「新年の贈り物に身に付けるものを贈るのは我が家の習わしなのだけど、ドレスも装飾品もたくさん持っているからいらない、とわがままを言う女性がいてね。その人だけに贈らないわけにはいかないし、なんでもいいから欲しいものを決めてくれ、と頼んだのだけど……」

「けど?」

 もったいぶるように間を取るウォルを促す。 

「だったら、宝石ではない装飾品をください、なおかつ私にふさわしいものを、と言われてしまった」

「なるほど……」

 聞いていて、かぐや姫の『蓬莱の玉の枝』に似ているなと思った。お金持ちの貴族に、不可能な贈り物を要求する姫。

「宝石でなければよろしいんでしょう? レース編みのチョーカーや、石のついていない指輪ではいけないんですか?」

 クラレットが尋ねると、ウォルが「そうだね」と頷いた。

「私もそれは考えたんだけれど、彼女は華やかできらびやかなものを好む性質でね。『私にふさわしいもの』という条件には当てはまらないんだよ」

「それは確かに……難題ですわね」

「だろう? 答えの出ないクイズみたいだよ。もしくは、最初から答えなんてないのかな。彼女は私を困らせたいだけなのかもしれないね」

 まるでこの状況を楽しんでいるような口調だ。

「ケイトはどう思う?」

 しばし、考える。その女性を知らないのでウォルを困らせたいだけ、ということを否定はできないが、解決しなくていい問題ではないだろう。それにその女性だって、新年くらい楽しい気持ちで迎えたいはず。

 だったらひとつ、思いついてしまったモノがある。
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