【番外編 完】愛を知らない彼
「先生ばいばーい」
「はーい、さようなら。また明日ね」


子ども達が帰って一息つくと、次は発表会の用意をする。
子ども達の笑顔を想像しながら、後日使う予定のお面や衣装を作るのも意外と楽しい。

「千花先生、ご機嫌ね」
声をかけてくれたのは、先輩の愛子先生。
「はい。学期末の劇の会を想像すると、もう楽しみで」
「そう。千花先生は本当にこのお仕事が好きなのね。そんな熱心な先生と一緒に働けて、私も嬉しいわ」
「ありがとうございます!」
「あっ、そうそう。千花先生、今日も例の人が見てたわよ」


うっ……〝例の人〟


にじいろ幼稚園は駅から近いため、周囲には仕事へ向かうサラリーマンの姿がたくさんある。
ここ2、3週間のこと、園の外からじっと見つめる男性がいるらしい。
愛子先生によると、どうも私を見ているという。
曜日も時間もまちまちで、見つめているのは1分にも満たないらしい。だから私は、その人に気づいたことがない。
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