【番外編 完】愛を知らない彼
「なんだか離れがたいけど、もう22時だ。今日はこのへんで帰るよ。おいしいご飯をありがとう」
「どういたしまして」
話しながら玄関へ向かう。
「千花、週末はあいてる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、10時に迎えに来るからデートしよう」
「はい、楽しみです」
「じゃあ、また連絡するよ」
康介さんはそう言うと、私の腕を引いて抱きしめてきた。
そして俯く私の顔に触れたかと思うと、そっと顎を上に向けさせて、ふんわりとキスをした。
「じゃあ、行くね。おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
玄関がパタンと閉まると、その場にへたり込んでしまった。
そっと自分の唇に触れてみた。
びっくりした……でも、嫌じゃない。
時間が経って、じわじわと実感が湧いてくる。
そして、その週は康介さんのキスを思い出しては、一人ジタバタしてしまった。