【番外編 完】愛を知らない彼

人の気持ちは、いずれ変わっていく。
両親が、そうであったように、互いに憎しみ合うようになってしまうかもしれない。
それなら、自分から求めることはしない。永遠を期待することもしない。

そう思って、自分から人を好きになることもなかったのに、あの幼稚園の横を通りかかるとついつい足を止めて見つめてしまう。
子ども達に向けられる〝千花先生〟の笑顔を見ると、自然に胸が高鳴ってしまう。
その笑顔を、一度でいいから正面から受け止めたいという想いが湧き起こってくる。
これまでに感じたことのない想いに戸惑いつつも、自分から行動を起こす勇気も出ずにいる。


彼女を知って、自分の中の想いに気づいて少しした頃のこと。翌日からの海外出張のため、いつもより早めに帰宅をしていた。
すっかり静かなにじいろ幼稚園から、〝千花先生〟が出てくるのが見えた。
そう言えば、帰宅時間に見かけるのは初めてだ。