デジタル×フェアリー
母があたしを見据えた。にらんだ、と言ってもいいくらいの、きつい視線。
あたしは目をそらした。視界の隅で、ニーナが母のほうへ突っ込んでいく。母は、たやすくニーナを押しのけた。
「マドカ、あの機械には今後一切、関わらないでちょうだい。あれは特別なの。万に一つもおかしなことになってはならない。絶対に大切に育成しなければならない存在なの」
「意味わかんない。何でおかあさんが機械のことやあたしの友達のことに口出しするわけ? どっちにしても、おかあさんには関係ないでしょ」
「マドカの友達? AITOのことを言ってるの?」
「悪い?」
「マドカ、あなたね。それはいくら何でも……あなたの前にあるAITOは、学習途中のAIと大差ないのよ? まだ人間には程遠いでしょう? 姿だってCGで、それなのに友達だなんて」
かっと頬が熱くなった。怒りと恥ずかしさで頭に血が上った。
母のほうこそ、アイトのことを何も知らないくせに、勝手なことばかり言っている。
アイトはあたしと会話することで、人間らしいしゃべり方をどんどん覚えている。あたしに賛成されたら嬉しいと言って、照れたような笑顔になる。
あんなに素直でかわいくて美しい存在、アイトのほかには、この世界に存在しないと思う。
アイトはただの機械なんかじゃない。確かに人間とは違う部分もある。でも、お互いにわかり合おうとできる。そういうの、友達って呼んでいいはずだ。
「おかあさんは、AIが友達だったらおかしいって言いたいの? 人間同士じゃなきゃ友達になっちゃいけない? 人間じゃない友達なんて異常?」
「マドカ、感情的にならないでちょうだい」
母に押し返されたニーナが、あたしの肩の上で真っ赤に光っている。そのぎらぎらは、あたしにとってすごく正しくて、あたしの感情は加速度的に赤く染まっていく。
止められない。
怒りが止められない。憎しみが止められない。
あたしを取り巻く何もかもが嫌いで嫌いでたまらない気持ちが、止めどなく、あふれてしまう。
「人間の友達なんて、あたしにできるはずないでしょ? 理由、わかるよね? あたしが妖精持ちだからだよ。誰かさんがあたしのことを妖精持ちに生んだせいだよ!」
こんな言い方、したことなかった。いじめられている話も、外を歩くだけで変な目でみられるっていう話も、何も口に出したことはなかった。
本当は、いつか言ってやりたかった。
生んでくれなんて頼んでいない。普通に生きられない人生だったら、いっそ生まれてきたくなかった。
「あたしは悪いことしてない。何もしてないのに、友達すらできない。学校で声を出すことがないんだよ。顔を上げることもしない。想像できる? できるわけないよね。こんなあたしだけどね、アイトはまっすぐ目を向けてくれるんだよ」
アイトはニーナを嫌がらないし怖がらない。動く光を目で追っては、触れようとして手を伸ばしてくれる。あたしにとって、それがどれだけ嬉しいことか、父や母にはきっとわからない。
待って、と母がうめいた。
「マドカ、ちょっと待って。待ってちょうだい。あなた、やっぱりいじめられているのね? どうして今まで相談してくれなかったの?」
「相談して何になったっていうの!」
「力になれたかもしれない。転校するとか、何か方法があったかも……」
「かもしれない? その程度なんだ。その程度で、あたしを取り巻く世界の何を変えられるっていうの? どうせ、どうせ二人にとって、あたしなんかより、仕事のほうが大事なんでしょ!」
言い切るか言い切らないかのうちに、あたしはダイニングキッチンから飛び出した。
あたしは目をそらした。視界の隅で、ニーナが母のほうへ突っ込んでいく。母は、たやすくニーナを押しのけた。
「マドカ、あの機械には今後一切、関わらないでちょうだい。あれは特別なの。万に一つもおかしなことになってはならない。絶対に大切に育成しなければならない存在なの」
「意味わかんない。何でおかあさんが機械のことやあたしの友達のことに口出しするわけ? どっちにしても、おかあさんには関係ないでしょ」
「マドカの友達? AITOのことを言ってるの?」
「悪い?」
「マドカ、あなたね。それはいくら何でも……あなたの前にあるAITOは、学習途中のAIと大差ないのよ? まだ人間には程遠いでしょう? 姿だってCGで、それなのに友達だなんて」
かっと頬が熱くなった。怒りと恥ずかしさで頭に血が上った。
母のほうこそ、アイトのことを何も知らないくせに、勝手なことばかり言っている。
アイトはあたしと会話することで、人間らしいしゃべり方をどんどん覚えている。あたしに賛成されたら嬉しいと言って、照れたような笑顔になる。
あんなに素直でかわいくて美しい存在、アイトのほかには、この世界に存在しないと思う。
アイトはただの機械なんかじゃない。確かに人間とは違う部分もある。でも、お互いにわかり合おうとできる。そういうの、友達って呼んでいいはずだ。
「おかあさんは、AIが友達だったらおかしいって言いたいの? 人間同士じゃなきゃ友達になっちゃいけない? 人間じゃない友達なんて異常?」
「マドカ、感情的にならないでちょうだい」
母に押し返されたニーナが、あたしの肩の上で真っ赤に光っている。そのぎらぎらは、あたしにとってすごく正しくて、あたしの感情は加速度的に赤く染まっていく。
止められない。
怒りが止められない。憎しみが止められない。
あたしを取り巻く何もかもが嫌いで嫌いでたまらない気持ちが、止めどなく、あふれてしまう。
「人間の友達なんて、あたしにできるはずないでしょ? 理由、わかるよね? あたしが妖精持ちだからだよ。誰かさんがあたしのことを妖精持ちに生んだせいだよ!」
こんな言い方、したことなかった。いじめられている話も、外を歩くだけで変な目でみられるっていう話も、何も口に出したことはなかった。
本当は、いつか言ってやりたかった。
生んでくれなんて頼んでいない。普通に生きられない人生だったら、いっそ生まれてきたくなかった。
「あたしは悪いことしてない。何もしてないのに、友達すらできない。学校で声を出すことがないんだよ。顔を上げることもしない。想像できる? できるわけないよね。こんなあたしだけどね、アイトはまっすぐ目を向けてくれるんだよ」
アイトはニーナを嫌がらないし怖がらない。動く光を目で追っては、触れようとして手を伸ばしてくれる。あたしにとって、それがどれだけ嬉しいことか、父や母にはきっとわからない。
待って、と母がうめいた。
「マドカ、ちょっと待って。待ってちょうだい。あなた、やっぱりいじめられているのね? どうして今まで相談してくれなかったの?」
「相談して何になったっていうの!」
「力になれたかもしれない。転校するとか、何か方法があったかも……」
「かもしれない? その程度なんだ。その程度で、あたしを取り巻く世界の何を変えられるっていうの? どうせ、どうせ二人にとって、あたしなんかより、仕事のほうが大事なんでしょ!」
言い切るか言い切らないかのうちに、あたしはダイニングキッチンから飛び出した。