シックザール
あたしの職場は目と鼻の先にある。あたしを監視するために上司が選んだのだ。

「おはようございます」

あたしは同じ職場の人に挨拶をする。その人とは同期なのだが、あたしは敬語を使い頭も下げた。あたしがこの職場で働くルールだからだ。

「あ、おはよう……。110番」

あたしとは違い青い制服を着た同期が言う。そしてあたしから目をそらし、離れていった。

他の同期も、先輩も、後輩もそうだ。あたしを名前で呼ばずに番号で呼び、制服が違う。

あたしはみんなから名前を呼ばれることと、みんなの名前を呼ぶことを禁じられた。あたしはこの中の誰よりも下なのだ。

それは、仕方ない。特殊警察の特攻班という仕事に就いているが、あたしは犯罪者なのだから……。



今から五年前、あたしは十五歳の頃から働いていた職場をクビになった。この国では仕事を突然クビになることなど当たり前だ。覚悟していたはずだったが、あたしは怒りが込み上げてきた。

低賃金でも必死に生きるために働いてきた。それなのに、なぜ金持ちの人間のために、腐りきったこの国のために、あたしが仕事を失わなければならないのか。怒りは日に日に増していった。
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