サヨナラのために


誠也がいなくなって、資料室が静かになる。


一人は嫌いじゃないけど、誠也がいなくなるのは好きじゃない。


不安で、落ち着かなくて、何かがなくなったみたいな、そんな気持ちになるから。


数少ない登録先から、一人の名前を押して、電話をかける。


「もしもし、先輩?」


「もう、美羽ちゃん!さっきはイキナリ切るからびっくりしたよ〜」


電話越しの大袈裟な孝宏先輩の声が、なんだかおかしくてクスクス笑う。


「先輩、私、嫌な女が板についてきたよ」


「どうしたの、突然」


先輩の優しい声は、ずるい。


なんでも引き出してしまう。



だから、無性に、話したくなったのかな。



「私、もうやめたい、やめるって何度も言い聞かせて、結局そんな決心、笑顔一つであっけなく壊されて…でも、本当は、心の底から思ってない」


やめる、なんて。


サヨナラしよう、なんて。



本当は、これっぽっちも、考えられない。


「…あーあ、だから美羽ちゃんは俺にすればいいのに」


「なにそれ」


先輩だって、忘れられないくせに。

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