サヨナラのために
いつの間に眠っていたのだろう、頬に触れる指の感触に、私はゆっくりと目を開ける。
「ごめん、起こした?」
優しい、大好きな声。
心配そうに顔を覗き込む誠也に、私は首を横に振る。
毛布からそっと手を出すと、すぐに握り返してくれる。
大きくて、ゴツゴツした、私の大好きな手。
このまま、時が止まればいいのに、なんて。
くだらない願い。
「…誠也、明日の夜、行ってもいい?」
「夜?いいけど、なんで?」
「…明日が来てからの、お楽しみ」
私が笑うと、誠也も嬉しそうに笑い返してくれた。
こんな状況で、自然と笑顔を作れる自分が自分じゃないみたいで。
本物の自分なんて、とっくに、いないのかもしれない。
ただただあなたが好きだった、真っ直ぐな私は、誠也との関係を壊したあの日に、閉じ込められて。
きっとこれから先も、二度と、出てくることはないだろう。