サヨナラのために
まだ暗い住宅街を、私と誠也は並んで歩いた。
電車を使えばすぐに着くけど、時間がかかっても、歩きたかったから。
「さっむ」
ギュッと体を縮こまらせて、誠也は手を差し出してきた。
「寒いから、つなぎたい」
私は、その手をそっと握り返す。
誠也の手は、大きくて、優しくて、あたたかかった。
海に行く道を歩きながら、私たちはたくさんのことを話した。
強がりだった私が、よく誠也の家の庭で隠れて泣いていたこと。いつも、そんな私を誠也が迎えにきてくれたこと。
初めて喧嘩して、一週間口をきかなかったこと。仲直りの印に誠也がちっちゃいチョコレートをくれて、それからそのチョコレートが私たちの仲直りの印になったこと。
サッカーでレギュラー入りできなくて、誠也が泣いているところを初めて見たこと。
修学旅行先で誠也がハトの大群に襲われて、死ぬほど笑ったこと。
尽きることのない思い出が、どんどん溢れ出す。