サヨナラのために
昔はもっと、単純だったのに。
誠也の気持ちも、手に取るようにわかったのに。
今では、なにを考えてるのかわからない。
家の前まで来て、いつもみたいに別れようとした。
「美羽」
「なに?」
「…明日の放課後、どっか行かない?」
私はすぐに目をそらす。
「…行かない」
見たら、負けだ。
「じゃあ土曜は?日曜でもいいよ」
「…行かない。それより、テスト勉強でしょ」
私は笑って、誠也の腕を引っ張って耳元で囁く。
「これからうちでするならいいよ」
「…バカ、体辛いんだろ」
「なっ…」
私を包むゴツゴツした手、筋肉質な体、頭がクラクラするほどの、誠也の、匂い。
記憶がフラッシュバックして、顔が熱くなる。
「朝、歩き方変だった。美羽のことならなんでもわかる」
朝って…みてたの?
「じゃあな」
頭をポン、と撫でられ、誠也は家に入った。