サヨナラのために


しばらくして、ガラガラ、と音を立ててドアが開いた。


「美羽ちゃん、またここ?」


「はい、これが唯一の楽しみなんで」


孝宏先輩は、少しだけ悲しそうに笑う。


先輩の存在が、今の私には救いだ。


「美羽ちゃんは、下手くそだね」


そうかもしれない。


あのまま、私が好きって言ったら、誠也はどうしたかな。


断られるかもしれないし、受け入れてくれたかもしれない。


でもきっと、離れるという選択肢は、誠也にはない。


「誠也は、優しいから」


だから、絶対に誠也から離れようなんて言わない。


私が誠也のことを好きだなんて知ったら、尚更。


「やっぱり美羽ちゃん、俺と付き合う?」


ふざけ調子で、でもきっと真剣に、先輩は言う。


先輩は、私の気持ちを知っていて。


私も、先輩の気持ちを知っている。


私は先輩が大切で、先輩も、きっと。


なんとなく、分かる。


私をこの先幸せにしてくれるのは、きっとこの人なんだって。




でも。



だからこそ。 

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