サヨナラのために
「メリークリスマス美羽ちゃん〜」
「相変わらず元気ですね、先輩」
ベッドの上で携帯を耳に当てながら苦笑する。
「美羽ちゃん全然会ってくれないしさー、今日もデートしたかったのに」
「今日、家族と親戚でパーティーなんですよね?」
「でもそれより美羽ちゃんに…」
「会えるんですよね?初恋の人に」
珍しく先輩が黙ってしまったので、私は思わずにやける。
先輩は、少しずつだけど、私にいろいろ話してくれるようになった。
初恋の人は、いとこで、近所に住んでて、小さい時から面倒を見てくれて。
本当に好きだった。でも、結婚してしまって。
どうこうする気はなくても、大きなイベントで会えるのが嬉しくて。
だから、どんな女の子に誘われても、たとえ、彼女に誘われても。
絶対、親戚が集まる日は断ること。
「先輩が嬉しいと、私も嬉しいです」
「…それは俺もだよ、美羽ちゃん」
真剣な声が、携帯の向こうから聞こえる。
「美羽ちゃんが悲しいと、俺も悲しい」
ああ、本当にこの人は。
「ありがと、先輩」
どうしようもなく、優しくて、大人だ。